平成30年度 第3回セミナー講師

上益城郡山都町坂本 光陽さん

就農年
2015年9月
主な作目等
レンコン(露地野菜)/主に葉物(施設野菜)
農業従事者
本人・妻

もともと有機農家の息子として育ちましたが、有機農業への興味はそれほどなく海外留学を経て大阪のこだわり食材宅配の会社へ就職しました。そこで通常流通している食品の危うさや、安全な食材を求めている消費者の存在、そして有機農業で立派に経営をしている農業者の方々に関わっていく中で、自分の家族や有機農産物を必要としている人たちに、本当に安全でおいしい食材を届ける仕事の大切さとやりがいを感じ、嫁さんを連れて生まれ育った熊本に帰ることを決断しました。

坂本 光陽さんの写真

就農地と現在の経営概要について

出身地である上益城郡山都町にて夫婦で就農。有機農家の二世ですが、経営は完全に別でやっています。現在はレンコン70a、ほうれん草20aを中心に栽培していますが、そのほかに若手農家6軒が集まり共同作業で2ha以上の露地野菜栽培管理もやっています。

農地の取得・ハウス施設や農業機械、農舎等の資金の確保、調達について

就農地は決まっていたので、研修期間中から役場や地域の方々、受け入れ農家の方からのサポートを受けながら農地を借り入れました。ハウスは中古のものを購入し自分で錆とり、錆止め塗装作業を行い建てました。資金は自己資金で300万用意していました。他には農業次世代人材投資事業交付金を夫婦で受給、最初の運転資金として140万ほどの新規就農支援資金制度を利用し、借り入れました。また県のインキュベーション事業やJAバンクの新規就農者営農支援事業(3回受給)、国の担い手確保・経営強化支援事業補助金(2回受給)などを活用し冷蔵庫(2坪)、トラクター、肥料散布機などを買いそろえました。

 

Q:色々な支援制度を利用活用されていますが、そういった情報を何処で情報収集されましたか?

熊本県認定研修機関である熊本有機農業研究会の紹介や地元役場の農林振興課、そして同じ新規就農者からの情報です。

Q:農地は借地のみですか?
昨年末から今年にかけて田を約60a購入しました。

Q:農地はどうやって探しましたか?
父の“つて”や、他の農家の方より情報をもらいました。中間管理機構も活用しています。

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販売について

販売先は現在、地域の農家が設立したこだわり野菜販売の会社への出荷が主で、他に前職場である大阪の会社や直売所などです。レンコンもほうれん草も需要が高く他に出荷する余裕がまだあまりありませんが、この先のことを考え、随時営業活動を行い少しずつ増やしていきます。ただ、最近の運送コスト増により個人での営業販売活動にかなりの制限がかかってきています。農協や市場を介せずに販売を行っていく中でこの問題をどのようにクリアしていくかが今後の大きな課題となっています。

農業技術は何処で?

インターネットで熊本県の就農支援を検索しているときに特定非営利活動法人熊本有機農業研究会を知り、研修を受けました。

作っている農作物の課題・苦労している事や農業をしてよかった点について

研修先と就農後の栽培品目がほとんど違うため、栽培技術がまだまだ未熟で、安定出荷がまだできていないのが現状です。安定して出荷できるということは安定して営業販売活動をすることができるということなので、不安定なままでは取引先を増やすことも、取引量を増やすこともままなりません。これが一番の経営面での課題だと感じています。

 

Q:栽培技術を挙げるための対策としてどういうことをお考えになり実行されていますか?
勉強会への積極的参加や同じ品目を栽培している先輩方への聞き取り等をやっいます。

Q:今の作目に決めた理由を教えてください。
会社員時代は青果物仕入業務を行っていたので、需要があることが分かっていたから。そして山都町の標高でならば有機で栽培可能だと判断しました。
一方で、財務、営業、企画、販売、栽培などなど経営に関するほとんどのことを自分の裁量で決めることができ、やった結果が自分にダイレクトに返ってくるのはとてもやりがいがありますし、責任を感じます。

今後の目標について

まずは自分の栽培技術の安定と販売先の拡大を行い、経営規模も現在の2倍ほどに拡大し経営の安定化を目指します。同時にまだ始めたばかりですが、若手農家の共同営農事業を軌道にのせ、新規就農者の情報源、農業資源の共有化、リスク分散の手段やスキルアップの場として活用していきます。この共同営農を行うことで、これまで個人農家としてはなかなか実行に移すにはハードルが高かった「雇用」や「大規模栽培」、「複数作業者によるリスクの軽減」などを実現し、より有機農業の盛んな山都町として育てていきたいと考えています。

新規就農を目指す人へのアドバイス

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まず、自分がなぜ農業をやりたいのかを明確にすることが大切かと思います。正直、企業に勤めていた方が低リスクで生活ができますし、経営していく中で栽培以外にやらなければいけないことも多く、それらが大きなストレスになることもあります。田舎の生活は時に会社に勤めているよりも大変な人間関係があったりしますし、一度就農してしまえばなかなか場所を変えたりすることは難しいです。せっかくうまくできた野菜も販売できずに畑で腐っていくのをただ見るだけなんてことも大いにありえます。そんな時、自分がなぜ農業をやるのかをしっかり持っていないと、途中でくじけてしまいそうになるでしょうし、つらい時間を過ごすことになります。世の中の流れで行けば、農業をしたいだけならば法人に勤めた方がよっぽどよいと思います。大きな法人であれば一般の会社並みに福利厚生が充実していますし、仲間も多いし技術もある、自分の資金を注がなくても施設はそろっています。それでもあえて自分で農業経営をすることに意味を見出すことができるのであれば今、心の中にある「なんとなくやりたい気持ち」を明確にして、それを実現するための経営計画を作り、いろんな人に見てもらい、修正しながら実現に向けて歩んでいってほしいと思います。「就農するのがほかの誰でもない何故、自分でなければならないか」、を明確に認識することができれば簡単にへこたれない新規就農者になれるような気がします。